劇場版新作長編アニメ 試写会オフ会 3
私が身支度していると、隣のベッドで菫夫人が目を覚ました。
なるべく音を立てないように、気をつけたつもりだったけれど。
まだ眠そうな、菫夫人。
そりゃそうだ。寝たのは午前3時近く。
試写会が楽しみ過ぎたのもあるが、菫夫人とベルの話をしていると、時間があっという間に経ってしまう。
…この“菫夫人”だが。
もちろん仮称だ。
この方の本名でもないし、ハンドルネームでもない。私がこの方を“菫夫人”と呼んだこともない。
ただ、この「試写会オフ会」のコラムを下書きするうち、どうしても固有名詞が必要になってしまった。スタンプラリーのコラムでは、ご一緒した方のお名前をなんとかぼかして書ききったのだが、もう無理だ。
考えた末、私はこの方をこのコラム内に限り“菫夫人”と呼ぶことにした。ベルに詳しく、宝塚版ベルにもお詳しいこの方を。
「すみません。起こしちゃいましたか?」
時刻は7時前で、私が起きたのは5時半だ。
ちなみに私が寝たのは4時半ごろ。今日の試写会をご一緒するもうおひとりの方とLINEをしていた。その方も、いよいよ迫った試写会に落ち着けぬようで、LINEのやり取りが止まらなかったのだ。
主に話題にしていたのは、アントワネットの絵柄と声。PVを観る限り、皇太子妃時代のアントワネットは、私には結構厳しい。
そして主題歌。
「薔薇は美しく散る」がアニメの主題歌として秀逸過ぎて、今回の絢香が歌唱する「Versailles -ベルサイユ-」が歌謡曲にしか聞こえない。
古い話になるけれど、昭和のアニメの主題歌には、その物語を映した素晴らしい主題歌がたくさんあった。
「マジンガーZ」はその曲を聴くだけで、多くの人が最後には「ゼェェェッッ!!」と叫びたい気持ちになるし、「宇宙戦艦ヤマト」だって、あの勇壮な歌い出しは若い世代だって知っている。
「ドラゴンボール」の「魔訶不思議アドベンチャー!」や「CHA-LA HEAD-CHA-LA」を、知らない日本人はほぼいないと思う。
「ムーンライト伝説」や「ペガサス幻想」なんて、外国人だって日本語で歌える。
それが、アニメの主題歌というもの。
フルコーラスは歌えなくても「草むらに~ 名も知れず~」の歌い出しと、「バラは バラは」のフレーズを口ずさめる人は性別・世代を問わず多いと思う。
それがTVアニメ版ベルの、主題歌の力。
『いやいやいやいや、今回のあの主題歌はないって!だって「薔薇は美しく散る」は未だに誰もが知っているもん。フルコーラスは歌えなくても、サビは大概の日本人は知ってる。でも、50年後とかに、あの主題歌がそうなるとは思えない』
私はそう暴言を吐き、暴れるけたくまのスタンプを貼り付ける。
けれどLINEの受け手であるマダム エミリアは、ゆずの香なんぞに煽られない。
『若い層に受けるなら、あの歌謡曲みたいな音楽もありかと思ったり』
…この“マダム エミリア”だが。
もちろん仮称だ。
この方の本名でもないし、ハンドルネームでもない。私がこの方を“マダム エミリア”と呼んだこともない。
ただ、この「試写会オフ会」のコラムを下書きするうち、どうしても固有名詞が必要になってしまった。スタンプラリーをご一緒し、そのコラムではお名前をなんとかぼかして書ききったのだが、もう無理だ。
考えた末、私はこの方をこのコラム内に限り“マダム エミリア”と呼ぶことにした。クレイダーマンしか弾けない私と違って、ピアノに造詣が深いこの方を。
由来を説明すると大幅に脱線するから、ここには書かない。マダム エミリアにはきっと、その由来が判るであろう。
『新しいPVの王妃さまは、大人になってからが結構いい感じですよ』
『みたー 王妃さま、皇太子妃時代よりいい。台詞回しも、今まで公開されているものより落ち着いてるし。やはり少女時代には、あえてバカっぽく演じていたのか!?』
『演出だったんですね』
『そう思いたい。でも安心しちゃうのは怖すぎるから、今はまだ疑り深い気持ちでいておくかな(笑)』
平野アントワネットファンの方々にはご不快に思われるかもしれないが、私にだって判ってはいる。平野綾という声優(だけじゃないけれど)さんが、そのキャリアにおいて、アントワネットをキャピキャピしただけのバカ姫に演じるわけがないことぐらい。
けれど私は、TVアニメ版ベルの再放送からベルにはまったので、当時のアニメにより親和性が高いのだ。そこを転機に二次創作を書くようになったため、今回の劇場版新作長編アニメへの期待値は振り切れている。
何をどう吐いたところで、新しいベルを知ることができる喜びは溢れんばかり…というか、だだもれのお漏らし状態だ。
おかげで4時半ごろに寝て、5時半過ぎには起き出しているというわけだった。髪をアップにしたいので、その作業に時間もかかることだし。
「やっぱり起こしちゃいましたか」
「でももう起きるところだったから」
今日、私たちは、8時半にホテルを出る予定でいた。
試写会の前に、スタンプラリーに行くつもりなのだ。
所要時間は、約4時間半。
いくらホテルを8時半に出たとしても、スタンプラリーを全部まわってから試写会に行くのは無理。それはじゅうぶん判っている。
でも、せっかく東京に来ているのだ。
「1つか2つだけ」
少しでも行ってみたいじゃないか。
菫夫人も起きたので、もう物音を控える必要はない。私はミネラルウォーターを電気ポットで沸かし、ミルクティーを2つ淹れた。
忙しい朝だが、インスタントでもお茶の時間ぐらい持ちたい。
「行くのは1つめの駅まで。もし余裕があるようだったら、2つめまで。でもそれ以上は絶対無理だと思う」
「電車にトラブルがあっても怖いですしね」
「ほんとそれ」
お茶を飲みながら、本日の確認は続く。
「12時にはお台場にいたいですねぇ」
「受け付け開始の30分前ぐらいには、着いていたいですね。たぶん行列になるでしょうし」
そんな話をしていると
「あ」
LINEが入ってきた。
「パ・ドゥ・シャ夫人だ」
昨日のスタンプラリーをまわった中のおひとりだった。
『いよいよ今日、ドキドキですね』
パ・ドゥ・シャ夫人は、今日はお見えにならない。
『大人になってからの王妃様の声、安心しました』
グループLINEなので、そのメッセージは菫夫人のスマホからも見られる。
「みんな考えることはいっしょだな」
「ねー」
私たちはうむうむと頷き合って、それから
「あー、本当にいよいよですね」
「楽しみだけど…」
もう何度目かの台詞を口にする。
「心配だ」
ところで。
この“パ・ドゥ・シャ夫人”なのだが。
もちろん仮称だ。
この方の本名でもないし、ハンドルネームでもない。私がこの方を“パ・ドゥ・シャ夫人”と呼んだこともない。
ただ、この「試写会オフ会」のコラムを下書きするうち、どうしてもではないが固有名詞を付けたくなってしまった。スタンプラリーをご一緒し、そのコラムではお名前をなんとかぼかして書ききったのだが、この際だ。
考えた末、私はこの方をこのコラム内に限り“パ・ドゥ・シャ夫人”と呼ぶことにした。
特にひねりを加えたわけでもないので、パ・ドゥ・シャ夫人には、きっとその由来が判るだろう。

再び訪れた東武百貨店特設会場。
アントワネットのスタンプ台の横にあるチラシスタンドは、またしても空だった。
昨日、菫夫人のぶんももらっておいてよかった。
また8Fまでもらいに行っていたら、試写会に間に合わなくなる。大盛況の『ぐるめぐり冬の大北海道展』は今日も絶賛開催中なのだ。
昨日使えなかった私は、学習したぶん、この日は菫夫人をガイドした。
東武百貨店から順調に駅構内を進み、電車に乗って上板橋駅へ。
ベルナールも昨日と同じく迎えてくれる。
「あ、スタンプ台紙!」
私は今日も押したい気持ちになり、駅改札の有人窓口に行った。
スタンプ台紙はラリー参加の各駅にも置いてあるのだ。
「すみません、この台紙をもらえますか?」
小窓のガラスの向こう側に見えているスタンプ台紙。
私が声をかけると、若い男性の駅員さんがすぐに窓口から手渡してくれた。
「ありがとうございます」
私はすぐにベルナールのスタンプ台に戻ろうとしたが。
「これ、話題になっていますか?」
駅員さんに、質問されてしまった。
「話題に…? うーん。どうだろう。少なくとも私の身のまわりでは、話題になっていますよ」
「そうなんですか!」
「私は(地名)から来ていますし、あの方は」
私は菫夫人に目を向ける。
「(地方)から見えていますし」
「え!」
「しかも私は、昨日は違う顔ぶれで、すでに1周まわっているんですよ」
私がSuicaのパスケースに入ったままの「東上線1日フリー乗車券」を見せると、駅員さんは素直な驚きの笑顔を見せてくれた。
そして私に、「よかったら」ともう1枚、スタンプ台紙をくれた。
私はその気遣いが嬉しくて、スタンプ台紙を2枚持って、ベルナールのもとへ、いや、菫夫人のもとへ向かった。
「押せた?」
「押せた」
「写真撮るでしょ?」
菫夫人が写真を撮り始めたので、私は次の電車の時刻を調べる。
昨日は私がこれをやってもらっていたんだよなぁ…
そんなふうに、改めてありがたく思っていると。
「写真、撮りましょうか」
先ほどの駅員さんが、わざわざ出てきてくれていた。
せっかくなので、私が菫夫人の荷物を持ち、写真を撮っていただいた。
「撮りまーす。いい笑顔でーす」
「横も撮りまーす。何枚か撮りますので」
“この人体育会系出身か?”と思うようなはきはきした声が、朝の爽やかな改札前によく響く。
振り向く通りすがりの人たち。足を止めた人も数人。
菫夫人とベルナールの2ショット撮影会は、なかなかに目立っている。
これもまた“お友達同士での冬のお出かけ、思い出づくり”だ。
やるな、東武東上線。
ありがとう、上板橋駅
グッジョブ、親切な駅員さん。
このあと私たちは、次の和光市駅まで行った。
そして2つめのスタンプを押し、ジェローデルに会い、写真も撮って。

11時50分。
私たちは予定通り、ゆりかもめの台場駅にいた。

まさかたった数日後に、このフジテレビ社屋に記者が詰めかけ、連日報道されることになろうとは。
「マルチシアターってどこだろう」
「マダム エミリアはもう着いてるって」
きょろきょろしながら、なんとなくまっすぐ進む。
「ここ?」
最初に目に付いた入り口から、中へ入ってみる。
「ちょっ、菫夫人見て!」

私の目に最初に入ってきたのは、オスカル・フランソワと王妃さまのキャラクターパネルだった。けれどそれどころではなく、天井からは大きな劇場版アニメ「ベルサイユのばら」のイラストが印刷されたシートが大迫力でさがっていた。




これ、くれないかな。そしたら、毎日くるまって寝るのに。
そんな馬鹿なことを考えながら、私はとにかく写真を撮りながら進んでいった。このとき菫夫人がどこで何をしていたか、記憶にまったくない。たぶん菫夫人も私の動向などまるで気にせず、写真を撮っていたことだと思う(笑)

マルチシアターの入り口
ここでもうすぐ、劇場版新作長編アニメ「ベルサイユのばら」の上映があるのだ。
「はー…」
気がつくと息をつめて中を凝視していて、私は大きく一息吐いた。

キャラクターパネル
てっきりすでに行列が出来ているとかと思っていたが、マルチシアター前のホールは行列も出来ておらず、混雑もしていない。
小さなフードコートのように、簡単なテーブルとイスが何組か置かれ、ファストフードのお店もある。
こんなフジテレビらしいカットも

室井さんと並ぶフランス王妃と近衛連隊長

私がデジカメとスマホで写真を撮っていると、目の前にマダム エミリアがいた。
「お~!」
昨日以来の再会に、マダム エミリアはにこやかだ。
私にとってマダム エミリアは、いつも素敵なワンピースを来た、センスのよいご婦人である。
「あれ?菫夫人は??」
私はこのときになって初めて、そばに菫夫人がいないことに気がついた。
「どこかで写真を撮ってるんじゃないかな」
先に着いていたマダム エミリアは、ファストフード店で買えるものや化粧室の場所などを教えてくれたので、とりあえず私は化粧室に向かった。
何が怖いって、上映中の突然の尿意だ。
受け付け開始まではまだ時間があることは、判っている。でも。

だんだんと試写会らしい雰囲気に
化粧室から戻ると、マダム エミリアと菫夫人がおしゃべりをしていた。
私は菫夫人に声をかける。
「ローソン行きません?」
化粧室へ行くときに、少し奥まった場所にローソンがあるのに気がついたのだ。
「おなかすきましたよね?」
朝からバタバタしていたので、私たちは朝食を取っていない。普段から、朝、ごはんを食べない私は全然問題ないのだが、たぶん普通はおなかがすくだろう。

素敵!
私たちがテーブルを囲んで軽食を取っているうちに

こうなっていた。
そして、ホールにいたたくさんの人がここに集まって、写真を撮っていた。
それは12時20分。
受け付け開始の10分前のこと。
パネルとカメラのフレームだけを見ていた私は、見るともなく周囲を見まわす。
「げっ」
シアター入り口横に置かれた長机の前に、行列ができていたのだ。

開かれた扉

マルチシアター内部
もう本当にいよいよで、私には不安の方が大きかった。
予定上映所間は117分。
約2時間ののち、自分がどんな気持ちでいるのだろうかと。
今回の試写会は、婦人公論ff倶楽部の募集によるもの。
「原作を描かれた池田理代子先生と婦人公論には、浅からぬご縁がありまして…」
司会の女性が、婦人公論と池田理代子先生との関りの歴史を紹介する。
その後。
マルチシアターの照明が落とされた。
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